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規則とマルスの乖離~旅客営業規則第70条と新幹線~

旅客営業規則には、第70条という特定区間を通過する場合の運賃・料金計算の営業キロまたは運賃計算キロに関する規定があります。

 

第70条
第67条の規定にかかわらず、旅客が次に掲げる図の太線区間を通過する場合の普通旅客運賃・料金は太線区間内の最も短い営業キロによって計算する。この場合、太線内は、経路の指定を行わない。
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蘇我以遠(鎌取又は浜野方面)の各駅と前条第1項第5号に掲げるいずれかの経路を経由して前項に掲げる図の太線区間を大久保以遠(東中野方面)、三河島以遠(南千住方面)、川口以遠(西川口方面)又は北赤羽以遠(浮間舟渡方面)へ通過する場合の普通旅客運賃・料金は、第67条及び前条第1項第5号の規定にかかわらず、外房線蘇我・千葉間、総武本線千葉・錦糸町間及び前項に掲げる図の太線区間内の最も短い経路の営業キロによって計算する。

 

 

この規則が何を意味するのか説明します。

例えば、常磐線水戸駅から中央線三鷹駅までの乗車券を発売する場合を考えてみましょう。この場合、日暮里・新宿駅間を第70条に掲げる図の太線区間から出ないで乗車するとき、旅客が実際に乗車する経路に関わらず、山手線内回りのみを利用した最短経路が運賃計算経路となります。

 

日暮里・新宿間の乗車経路例

  • 東北[田端]山手2 営業キロ11.3km (最短のため。これが運賃計算経路となる)
  • 東北[神田]中央東 営業キロ13.5km
  • 東北[東京]東海道[品川]山手1[代々木]中央東 営業キロ23.2km

 

こちらの乗車券をマルスで発行した場合の経由欄印字は、「常磐・中央東」となり、日暮里・新宿間の「東北」と「山手」は印字が省略されます。

なぜ印字が省略されているのかというと、第70条には「経路をしていしない」とはっきりと規定されているからです。指定されない経路を印字しないというのは、考えれば、至極当然のことであるといえます。

 

省略される経由線一覧(通過の場合)

  • 山手1 品川・代々木間(渋谷経由)
  • 山手2 新宿・日暮里間(駒込経由)
  • 赤羽線 池袋・赤羽間
  • 東海道 東京・品川間(左記区間のみ東海道線に乗車の場合に限る)
  • 東北 東京・日暮里間(左記区間のみ東北線に乗車の場合に限る、)
  • 東北2 田端・赤羽間(王子経由、左記区間のみ東北線に乗車する場合に限る)

 ※詳細はこちらをごらんください

 

では、通過で新幹線を経由する場合はどうなるでしょうか。

最初に、品川・赤羽間を通過する場合を見てみます。

こちらの乗車券は、品川・赤羽間を次のような運賃計算経路で通過しています。

~武蔵小杉[横須賀線]品川[新幹線]東京[東北新幹線]上野[東北]日暮里[山手2]田端[東北2]赤羽[埼京]~

前提として、品川・赤羽間は最短経路は東京経由となっています。乗車券の経由欄をご覧ください。

「~横須賀線・品川・新幹線・東京・新幹線・上野・北赤羽~」となっています。

ここで、ひとつの疑問が生じます。それは、「経由欄に『品川・新幹線・東京・新幹線・上野』という表示をしてもよいのか」です。

そもそも、「経路の指定を行わない」としている中で、新幹線経由の運賃計算経路になっているのかというと、旅客営業規則第16条の2において、品川・東京間と東京・上野間の新幹線は、それぞれ東海道線東北線と同一線とするという規定があるからです。制度上、品川・上野間は新幹線経由だろうと在来線経由だろうと同じ東海道線東北線なので、最も短い営業キロにおいて運賃計算をする70条としては特に何ら関係ないことというふうになります。このことから、運賃計算経路を新幹線経由にしているのは、特段問題はないでしょう。規則第154条第1項第1号イ、第156条により、近郊区間外のため、2日間有効となります。

ここから本題に入ります。まずは、次の規則条文をご覧ください。

(特定区間を通過する場合のう回乗車)

第159条
旅客は、普通乗車券、普通回数乗車券又は団体乗車券によって、第70条に掲げる図の太線区間を通過する場合には、この区間をう回して乗車することができる。
(中略)

(特定区間発着の場合のう回乗車)

第160条
第70条第1項に掲げる図の太線区間内にある駅発又は着の普通乗車券又は普通回数乗車券を所持する旅客は、その区間内においては、その乗車券の券面に表示された経路にかかわらず、う回して乗車することができる。ただし、別に定める場合を除き、う回乗車区間内では、途中下車をすることはできない。

これらは、第70条に関連する例外規定の抜粋です。ひとつは先ほどから何度か文章上に出している第159条、もうひとつが、第70条太線区間内発着の乗車券の効力に関する規定です。条文を見比べてみましょう。

第159条では

「旅客は、普通乗車券、普通回数乗車券又は団体乗車券によって、第70条に掲げる図の太線区間を通過する場合には、この区間をう回して乗車することができる」

としているのに対し、第160条では

「第70条第1項に掲げる図の太線区間内にある駅発又は着の普通乗車券又は普通回数乗車券を所持する旅客は、その区間内においては、その乗車券の券面に表示された経路にかかわらず、う回して乗車することができる」

という条文になっています。

第70条太線区間通過の迂回乗車を規定している第159条には「乗車券の券面表示経路にかかわらず」という文言がないことがわかります。もし、第70条太線区間を通過する乗車券にも、太線区間内の経路を表示するのならば、「乗車券の券面表示経路にかかわらず」という文言を条文中に入れるべきです。このことから、規則的にも、「第70条太線区間通過区間の経路表示はしない」ということになっていると解釈することができます。この乗車券の券面をみると、「経路指定しない」としている太線区間内があたかも経路が指定されているようです。品川・東京間と東京・上野間の新幹線利用においては、第70条の規定に反しながらも、第156条の大都市近郊区間などの効力に関する面をわかりやすくするため、その規定を優先し印字していると考えるのが妥当でしょう。

 

では、東京から新横浜以西、大宮以北に行く場合はどうなるでしょうか。

最初に、東京から東海道新幹線に乗車し、新大阪方面へ行く乗車券についてです。

 

(雪えす氏提供)

こちらの乗車券は、国立から尼崎まで、東海道新幹線を経由している乗車券です。

乗車券の経由欄は「中央東・東京・新幹線・新大阪・東海道」となっています。この乗車券では、新宿・品川間が第70条太線区間を通過しているため、渋谷経由の最短経路での運賃計算をしなければなりません。しかし、乗車券の券面には、経由が東京と記載されています。この乗車券の運賃計算経路はどうなっているのでしょうか。

国立・尼崎間の新宿・品川間最短経路で運賃計算した場合の合計営業キロは592.1km、東京経由で運賃計算した場合の合計営業キロは598.6km。どちらも同じ運賃帯のため、どちらで運賃計算がされているのかわかりません。

新大阪を乗車券着駅として調べた結果、武蔵境・新大阪(大阪市内)の乗車券は、東京経由か渋谷経由かによって運賃帯が変わるとわかったので、JR東日本のインターネット予約サイト「えきねっと」を使用して、普通片道乗車券の運賃を調べてみます。

ちなみに、渋谷経由の合計営業キロは575.6km、東京経由の合計営業キロは582.1kmとなります。それぞれ普通大人無割運賃は9130円と9460円となり、券面経路通りの運賃計算を行っていた場合、330円の過収受が発生している、ということになります。では、結果をご覧ください。

 

まず、こちらが経由駅に渋谷を指定した、70条太線区間最短経路で計算した結果になります。先行調査のとおり、575.6kmの9130円となりました。では次に、経由駅を東京にしていしたときの結果を見てみましょう。

 

東京経由の検索結果です。渋谷を経由駅にしていしたときと全く同じ、575.6kmの9130円という結果が出ました。先述した通り、東京経由の場合、営業キロ数は582,1kmとなるので、この検索結果の数値とは異なります。この結果から考えると、マルスにおいて、東京から新横浜以西へ東海道新幹線に乗車する場合、太線区間は最短経路での運賃計算としているようです。しかし、その場合には経路表示から省略されるべき「東京」が、この乗車券では印字されてしまっているのです。これでは、1枚の乗車券の中で矛盾が発生している状態、いわば「規則とマルスの乖離」が起こってしまっているのです。

 

(雪えす氏提供)

軽井沢から国立までの片道券です。

券面を見ればわかる通り、第70条太線区間を通過しているのに加え、経路印字には「東京」が現れています。運賃計算が東京経由の場合、学割運賃は2720円となるため、これも先ほどと同様、矛盾が発生してしまっています。どうやら、マルスは第70条関連区間で新幹線に乗車するすべての場合において、入力された新幹線部分の経路をそのまま印字するようなシステムとして、旅客へのわかり易さを優先しているがゆえ、規則との乖離が起こっている部分があるようです。

 

ここまで、旅客営業規則第70条と新幹線に関連する、「マルスと規則の乖離」についてご紹介しました。駄文となってしまいましたが、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。