旅客鉄道会社には、いわゆる「下車代」と呼ばれる取扱があります。
たとえば、このきっぷ、舞浜駅の「東京駅下車代」などがありますが、これはどういう意味なのでしょうか。
この乗車券、経路に舞浜駅が属する京葉線は含まれていません。舞浜駅に行くには京葉線と分岐する東京駅からの運賃が別途必要です。
そこで、「東京駅までこの乗車券を使用した」「別途乗車をして舞浜まで乗った」ということを証明するための証明がこの「下車代」の証明です。定めとしては、旅客営業取扱基準規程第247条第3項第2号、第271条第1項第2号に規定があります。
また、「下車代」がなぜ「下車」なのかについては、第271条第1項第1号をご覧いただくと分かるかと存じます。
(併用乗車券の入鋏方)
第247条 連続した2区間以上の乗車券を併用して乗車する場合の入鋏方は、次の各号に定めるところによる。(中略)
3 規則第20条第1項第2号又は同第247条の規定によつて発売した普通乗車券を使用して当該券片区間の駅に下車した場合で原乗車券を回収することができないときは、第271条第1項第1号及び同項第2号の規定によつて取り扱つたものであるときを除き、次の各号に定めるところにより取り扱うものとする。
(1)第271条第1項第3号の規定によつて取り扱つたものであるときは、原乗車券に表示された「何駅分岐」の箇所に途中下車印を押す。
(2)前号以外のときは、原乗車券の券面に「何駅代」の例により記入し、駅名小印を押す。(中略)
(別途乗車の取扱方)
第271条 車内補充券又は改札補充券の事由欄を「分岐」とする別途乗車の取扱いをする場合は、次の各号に定めるところにより取り扱うものとする。
(1)分岐駅において取り扱う場合は、原乗車券に途中下車印を押す。
(2)分岐線内の分岐駅以外の駅において取り扱う場合は、原乗車券の券面に分岐駅名及びその要旨を「何駅代」と記入し、途中下車印を押す。
(3)前各号以外の場合は、原乗車券の券面に分岐駅名及びその要旨を「何駅分岐」と記入して証明する。
では、このきっぷを見てみましょう。
こんどは、この乗車券に押印されている立川駅の「新宿駅代」について考えます。なお、「何駅代」は「何駅下車代」と同じ意味で、定めでは「何駅代」の文言が使われています。
この乗車券をみると、品川駅は券面経路に含まれていますが、新宿駅は券面経路に含まれていません。日暮里駅下車代とすべきところですが、一体なぜ新宿駅下車代なのでしょうか。
新宿駅下車代となる根拠は、旅客営業規則第159条第1項にあります。
(特定区間を通過する場合のう回乗車)
第159条第1項には、「第70条に掲げる図の太線区間を通過する場合には、その区間をう回して乗車することができる」とあります。
これが、第70条の太線区間です。今回の乗車券の場合、日暮里・赤羽間はこの太線区間を通過しています。すなわち、今回の乗車券において日暮里・赤羽間は「太線区間から出ない」「重複乗車とならない」という点に注意すれば日暮里・赤羽間の最短経路ではないルートでも乗車することができます。
これを適用し、日暮里から御茶ノ水、千駄ケ谷経由で新宿まで出て、新宿から分岐として別途乗車をしたということになります。
この場合はどうでしょうか。
券面左上、鶴見駅の「東京駅下車代」について考えます。
この乗車券、第70条の図太線区間を通過しているので、先ほどの立川駅の例と同じようにう回乗車を適用し、別途支払う運賃が低廉となる品川駅下車代とすればよいと思えます。
しかしながら、この例では東京駅下車代です。一体なぜなのでしょう。
おもな理由は、第159条の条文にあります。第159条の条文の末尾は「~することができる」です。「することができる」ならば、する必要はありません。旅客が「じゃあしませんと言えば、別にそれでも良いのです。このような理由から、今回の例では品川駅下車代ではなく東京駅下車代となっています。
最後にこの乗車券です。
京葉線南船橋駅からの片道乗車券です。出札補充券にて発売されました。
経路は「南船橋〈京葉〉東京〈東北新幹線〉上野〈東北〉…」です。
券面には立川駅の東京駅代が証明されています。東北新幹線は在来線の東北本線と同一線扱いのため、必ずしも新幹線に乗車する必要はありません。
今回の場合、第159条のう回乗車をせずとも、分岐駅は神田駅となり、「東京駅代」ではなく神田駅代となるのが正当に思えます。しかしながら実は、東京駅代でも正当なのです。根拠は先ほどにも一度掲げた旅客営業取扱基準規程第247条第3項です。
(併用乗車券の入鋏方)
第247条 連続した2区間以上の乗車券を併用して乗車する場合の入鋏方は、次の各号に定めるところによる。(中略)
3 規則第20条第1項第2号又は同第247条の規定によつて発売した普通乗車券を使用して当該券片区間の駅に下車した場合で原乗車券を回収することができないときは、第271条第1項第1号及び同項第2号の規定によつて取り扱つたものであるときを除き、次の各号に定めるところにより取り扱うものとする。
(1)第271条第1項第3号の規定によつて取り扱つたものであるときは、原乗車券に表示された「何駅分岐」の箇所に途中下車印を押す。
(2)前号以外のときは、原乗車券の券面に「何駅代」の例により記入し、駅名小印を押す。
今までに掲げた3枚の乗車券は全て旅客営業取扱基準規程第271条第1項第3号による「何駅代」の券面証明でしたが、今回のものは、この旅客営業取扱基準規程第247条第3項第2号によるものです。
条文で指定されている「規則第20条第1項第2号」と「同第247条」はそれぞれ次の通りです。
(乗車券類の発売範囲)
- 第20条
- 駅において発売する乗車券類は、その駅から有効なものに限って発売する。ただし、次の各号に掲げる場合は、他駅から有効な乗車券類を発売することがある。
- (中略)
- (2)乗車券(通学定期乗車券を除く。)を所持する旅客に対して、その券面の未使用区間の駅(着駅以外の駅については、途中下車のできる駅に限る。)を発駅とする普通乗車券を発売する場合。
- (中略)
(別途乗車)
つまり、あらかじめ駅で別途乗車区間に対する乗車券を購入する場合、その別途乗車を始めた区間の発駅を下車代の駅として取扱うことになるのです。今回の場合、あらかじめ東京駅が未使用区間に含まれる状態で東京駅から立川駅への別途乗車に対する乗車券を購入し、原乗車券である南船橋からの出札補充券に下車代の証明を頂きました。
別途購入した乗車券はこちらです。
今回は以上です。ご覧いただきありがとうございました。